採用内定時の留意事項

 

Q 従業員、数十名規模の小さな会社です。このたび来春の卒業予定者を高卒1名、大卒名、採用することにしました。採用試験を実施したのち内定通知を出し、入社承諾書も提出してもらいましたが、内定通知、入社承諾書の提出の法的な位置づけはどのようなものか知りたいのですが。会社から入社を断るような事情は今のところ存在しませんが、万一、学生側から入社を断ってきたときはどうなりますか。

  

お答えします。

  

採用内定とは

 

 通常、卒業を前にした学生に対して在学中に採用試験を実施して採用を約束しておき、卒業後に約束通り入社してもらう制度です。卒業が前提ですから卒業ができない、その他予期せぬ採用にあたっての不都合な事情が生じたときは、その内定を取り消す制度です。

 

 学生は内定通知を受け取れば、卒業後の就職先が約束されたわけですから、通常の場合、それ以上の就職活動をしないと思います。ですから、その内定を途中で取り消されますと学生は大きな不利益を受けることになりますので、会社の都合による採用内定取り消しは制限されることになります。

 

 会社は採用選考の段階では、採用するかしないかについて広範な自由をもっているが採用を内定すると、労働契約は成立し、不適格と認める客観的事情が存在しるときに限り解約できる権利が保留されているだけである、という最高裁の判決があります。

 

 そして、どのような場合に内定取り消しができるかについて、次の二つの条件を満たさなければならないとしています。①採用内定当時、知ることが出来ず、また知ることが期待できないような事実があること。②その事実を理由に採用内定取り消しをすることが、これらの制度の趣旨、目的に照らして客観的合理性があり、社会一般の考え方からも是認できること。

 

 一般に、経歴詐称などの労働力の評価を左右する事実を理由とする場合は合理性があり、

 国籍・思想信条や組合活動などを問題にするのは不当な差別や不当労働行為として合理性を欠くものとされています。経営上の理由による取り消しは、内定時に予測できなかった重大な経営状態の激変がないかぎり、認められないようです

  

労働者からの解約はできる

  

  労働者からの内定の解約は、入社承諾書の提出があろうとも2週間前に予告すれば自由にできます。入社承諾書を出しているからという理由で解約を拒否することはできないようになっています。(民法6271項 このページの下に条文掲載)。また入社後であっても2週間の予告で辞められることになっていますから、それに準じて入社前の解約ができるのは当然であるということになります。

 

昨今の就職活動事情と学生からの内定解約申し出

 

 高校生の場合は考えられませんが、大学生の場合、自由受験が一般的ですから本意ではない会社を受験して内定通知を受け、入社承諾書を提出したあとも、引き続き就職活動を続ける学生が多数いることがわかっていますが小規模企業としては影響の大きい問題です。

 なかなか希望する会社から内定を受けられないからなのでしょうが、もし内定をもらっている会社よりも自分の希望に近い会社から内定をもらったときなど、複数の会社から内定を取り付けている状態になったにもかかわず、入社辞退の連絡をせずそのまま入社日を迎えるなど、著しく信義に反する対応をした場合は、入社しない会社は多大な迷惑をこうむりますので見過ごすわけにはいかなくなります。債務不履行ないし不法行為により、損害賠償責任を求めることができるかもしれません。、

 

 このような事態を軽減するために、採用側としては内定通知を出し、入社承諾書を提出してもらったのちも入社日まで、定期的な連絡をとる必要があるかもしれません。

 

 また、学生としては入社しないことを決めたのであれば、気まずい気持ちがあろうとも、すぐに連絡してもらいたいものです。

 

民法

第六百二十七条  当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
 期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。

 

 

広島の社会保険労務士 社労士 西田事務所