変更解約告知
Q 経営不振を理由に賃金の30%ダウンをいい渡され、嫌なら辞めてもらうと通告されました。どうしたらよいでしょうか。
CHECK 1 解雇という圧力手段を用いながら契約内容=労働条件の変更を迫ることは、本来、解雇権の濫用となり、また労働条件対等決定の原則にも反することになり、許されない。
変更解約告知とは
変更解約告知とは、従来の労働契約の解消と新たな労働契約の締結の申込みを同時に行うことで、労働条件変更のための手段として用いられる解約告知をいいます。
変更解約告知の方法としては、
① 労働契約内容の変更の申入れとともに、労働者の承諾を解除条件または労働者の拒否を停止条件として解約告知を行うもの、
② 解約告知と同時に、あわせてその告知期間経過後に変更された条件で労働契約を継続する申込みをするもの、の2つがあります。
ドイツでは労働契約で職種や勤務場所が特定されていることが多く、それらの変更は変更解約告知によって行われる必要があるとされています。変更解約告知に対しては異議をとどめて変更後の条件の下で就労しながら、その条件の変更が社会的に相当かどうかを労働裁判所で争うことができます。
裁判例には、航空産業のリストラの中で東京支社の人員を大幅に削減し、残存従業員の雇用形態と労働条件を根本的に変更するために行った変更解約告知を有効としたものがあります(スカンジナビア航空事件・東京地決 平7.4.13)。
しかし、日本には立法的整備がなく、ドイツのような厳格な労働契約は稀であり、また 変更解約告知が問題となる多くの場合は、就業規則変更法理で対処できます。解雇という圧力手段を用いながら契約内容である労働条件の変更を迫ることは、本来、解雇権の濫用といえるでしょうし、労働条件対等決定の原則(労基法2条法3条1項)にも反することになりますので、この裁判例については多くの批判がなされています。
変更解約告知の範囲
変更解約告知を労働条件変更の手段として承認するためには、ドイツのような法的整備が必要であるというのが多くの学説の指摘するところです。この場合でも、労働条件変更には就業規則の変更という、より穏健な手段があるので、就業規則の変更によって対処できる場合には、解約変更告知はできないと考えられます。また、集団的変更解約告知が人員整理の一環としてなされるようなケースでは、整理解雇の4要件と同様の判断の視点をとる必要があるとされています。
① 就業規則の変更以で対処できる労働条件変更 労働時間、賃金、退職金等
② 就業規則の変更で対処できない労働条件変更 契約上特定されている勤務および勤務場所など
変更解約告知における労働条件変更については、従来どおりの労働条件では契約関係を存続させることが不可能であり、解雇することがやむを得ないとされる限度において労働条件の変更が不可欠であるということでなければならないと考えられます。賃金に関する変更解約告知について、みてみましょう。賃金支払いは、労働契約における使用者の中心的な義務です。ドイツでは賃金に関する変更解約告知は、賃金を変更しなければ職務ポストが失われてしまう危険性があり、その他の措置によってはこの危険が回避されない場合であって賃金の変更によってこの危険が取り除かれる公算が大きいことを使用者が証明した場合に限って認められると考えられています。
期間の定めのない契約から有期契約への変更解約告知については、どうでしょうか。
手続き的な保障のあるドイツにおいても、判例は、期間の定めのない契約から有期契約変更解約告知は許されないものとしています。